僕が初めて海外に行ったのは大学生の時、それは卒業旅行だった。
仲間と4人で行き先を決め、サイパンへ出発することになった。
現地に着くとすでに深夜で、特に宿も予約していなかったのでブラブラと歩くことにした。
仲間の一人、メンバーの中で最もファンキーな坂元が口を開いた。
「なぁ、ヒッチハイクしようぜ。」
僕たちは賛同し、早速通りかかったトラックに向けて親指を突き上げてみる。なんと、いきなり停まった。運転手はひげが生い茂っており、助手席の人の表情はなんか怖い。以前聞いたところによると、外国人をあえて乗せ、路地裏に連れていかれて恐喝暴行なんて事件もあると聞いたことがあったので、少しだけ怖くなる。
坂元は海に連れてってくれとひげの濃い男に言った。彼はオーケーオーケーと言うと荷台に乗れと言って走り出した。
初めて来る異国の地で感じるトラックの上の風は心地よく、僕たち四人は旅が始まったぜ!と意気揚々と笑い合っていた。
しばらくすると古い工場のような場所へ着いた。脇の木々をすり抜けて裏へと入っていく。これはいきなり終わったんじゃないか?ここで殺されるんだ・・と顔を青ざめていると、二人は車を下り、着いたぞ!と言った。
荷台から飛び降りると地面は砂浜だった。木々が生い茂って先が見えない。しかしその密林地帯を抜けると、目の前に広大な海が現れた。月明かりに照らされた海岸は幻想的で、僕たち四人は口を開けて固まってしまった。
しばらく海に見とれると、僕たちはお互いの目を覗き込み、これでもかと大きな声で笑った。飛び跳ね、抱き合い、海に飛び込んだ。服を脱ぎ捨て、気の済むまで裸で泳いだ。
運転手のひげさんはたばこ一本くれよといって手をだした。
「どこから来たんだ?」
「ジャパンだ!」
と僕たちは誇らしげに声を張り、運転手はここは最高だから楽しんでいけよと言って去っていった。
残された僕らは泳ぎ疲れ、4人ともそのビーチで眠ってしまった。
目が覚めて周囲を見渡すと野犬がうろうろしていて、仲間のふたり、そうすけと洋太はすでに海で泳いでいた。おーい、入ろうぜ!と言って遠くの方から手を振っている。
しばらく泳いでこれからどうしようか?と会議になった。
とりあえず飯食おう!ってことになり、レストランを探して歩き出した。途中で廃墟を見つけ、坂元が缶蹴りやろうぜ!と言い出した。
僕たちは小学生のように廃墟を駆けずり回り、子供のように全力で遊びまくった。
缶蹴りを終えまた歩き出すと、黄色い看板のレストランが見えてきた。名前はJAMES。活気のあるレストランで、とにかく店員が明るい。このレストランに僕たちは多大な恩を受けることになる。
無心に食べまくっていると、中から人が出てきた。どこから来たの?どこへ泊まっているの?僕らはビーチに寝泊まりしているんだと言った。するとその女性は危ないからそんなことしてはいけないと叱ってくれた。ここへ泊まりなさい。店が閉まったらここへ戻ってきて、ここで寝泊まりしなさい、と。ご飯も食べさせてあげるからと言ってくれた。僕たちは歓喜のあまり発狂状態になった。
それから約2日間。そのレストランの床に段ボールを敷いて眠り、ご飯をいただき、風呂まで貸してもらった。驚いたのは、泥棒がいるから戸締りはきちんとしといてねと言い残し、鍵を預けてきたことだ。無頓着と言うか警戒心がないというか、信頼されているのかなんなのか、それでもその気持ちは本当に嬉しかった。
次の日、作戦会議の末禁断の島という場所へ向かうことにした。
バイクをレンタルし、島の端っこまで爆走。現場へ着くとそこは離島だった。とりあえず近くまで行き、様子を見ることに。
看板がそこいら中に立っていて、DANGERとかなんとかドクロマークまでついている、なんでもカレントが発生するらしく、入るなということらしい。しかしまた坂元が口を開いた。これは行くしかないな、と。
僕たちは覚悟を決め海を渡ることにした。しかし途中で洋太が俺はやっぱりやめる、待ってるからと言って引き返していった。坂元とそうすけは海を無事渡り、禁断の島の崖を登り出した。僕は遅れて到着し、後を追うとそうすけが戻ってきた。
無理だ、登れないよ言って。坂元を見るとぐんぐん登っている。そうすけも戻ることにし、坂元と僕の二人が登ることになった。
崖は鋭く、落ちたら終わりだ。しかし岩が大きいので登れないこともない。下りが厄介そうだな、と思いながら頂上へ着いた。そこは一面芝が生い茂っており、なぜこの高さで芝が茂っているのかよく分からなかった。
しかしそこはこの世とは思えないほど美しく、絶壁から見下ろす景色は天国だと思えるほどの壮大さだった。
島の端の方で坂元は一人で叫んでいる。馬鹿野郎と聞こえた気がしたが聞かなかったことにした。坂元は誰も登ってきていないと思っているので、振り返って私をみると大声を出して抱きついてきた。その後ろからも誰かが抱きついてきた。そうすけが登ってきたのだ。
僕たちは絶叫し、お互いを称えまくった。
禁断の島を離れ、僕らはレストランに戻った。するとシェフが今夜暇なら朝まで飲み明かそうと誘ってくれた。家へ行き、酒を飲み、つたない言葉で語り合った。なんでもフィリピンからやってきて、収入を祖国へ送っているとのこと。僕らは感動し、お互いの夢を語り合い、励まし合ったのだ。
壁にギターがかかっていたので僕はそれを拝借した。シェフに向けて一曲プレゼントしたいと思ったのだ。僕は英語が得意ではない。けれど、なぜかわからないけれど、スラスラと英語の曲をその場で歌った。
気持ちがこもれば奇跡が起きる、そんな体験だった。
次の日に帰国するので、そのレストランの一人一人にお礼をすることにした。金がないので何かを買ってプレゼントをするのではなく、全員にキスをすることにした。
その日は夜通し黄色い声がレストランに響き渡っていた。
こうして僕らの旅は幕を閉じたわけだが、これを機会にそうすけは旅行会社へ就職を決めた。
7年後、写真が送られてきた。添乗員としてサイパンへ行ったとのことだった。
みんな元気だったぞ!という題名と共に、僕たちがキスをしたレストランの人たちが笑顔で写っていた。