民家に泊まる経験で人の優しさを痛感したヒッチハイク

カテゴリー【旅✖️神様】では、様々な人が体験した旅先での奇跡の瞬間をお伝えしています。この体験談を読んで、旅で起きる様々な奇跡の瞬間を感じていただきたい、そして実際に旅に出て奇跡の瞬間を体験してもらいたい、その思いで伝えています。

 

人の優しさを感じられるからこそ旅はやめられない。

そのことを強く実感したのが大学時代の東京から広島へのヒッチハイクでの旅行である。

貧乏学生がありったけの生活必需品や着替えをバッグにしまい込み、近所のスーパーで買ったスケッチブックを片手に家の前の道路からスタートした。東京とは言っても閑静な住宅街だったので交通量は少なかった。おまけにスケッチブックに「広島」・「名古屋」などと書いていたものだからなかなか車を捕まえることが出来ずに3時間が経過し、心が折れかけた。

もうヤケになって「少しでも東へ!!」と書いてみたところ、親切な近所のおじさんが買い物のついでに交通量の多い通りまで連れて行ってくれたところでようやく僕の長旅は始まった。

そこからはエジプト人のトラック運転手、謎の社長、土建屋などの個性豊かな面々に拾ってもらい大変ありがたいお話をしていただいた。どの人も普通の生活を送っていたらお世話になることのない人々だろう。

中でも三重県から旅行に来た帰りの家族が最も印象深い。
その家族と出会ったのは神奈川県の海老名サービスエリアである。ガソリンスタンド付近でスケッチブックに「名古屋」と書いて掲げたところ、30分程度で彼らに出会った。

坊主頭で一見厳つい風貌の主人に落ち着いた印象のメガネが似合う奥様、小さな子供が2人の4人家族だった。その厳つい主人に「名古屋方面でしたら乗っていかれますか?」と平身低頭に尋ねられて即決。神奈川から名古屋まで一気に進むことが確定した。

しばらくすると社内で今後の予定を尋ねられた。名古屋に着いても具体的な案がなかったので大変心配してくれて、あれこれと考えを述べていたたところ、主人の鶴の一声で一気に状況が好転した。なんとその家族の家に泊まっていくように進言してくれたのである。

ついさっき知り合った人間を車に乗せるどころか家に泊めてくれる器の大きさに感動した。二つ返事で「お願いします」と感謝の辞を述べた。しかも、道中お腹が減ったことだろうと浜松で夕食をご馳走してくれることになった。主人がひつまぶしでも食べるように勧めてきたが、余りにも恐縮してしまったので一番安い豚丼を選ばせていただいた。豚丼をご馳走になるだけでも大変感動したもので、その日食べた豚丼は私の人生の中でも最も美味しいもので有り続けるに違いない。

その後、三重県にある家に着いた。とにかく大きくて立派な家で主人の懐の大きさを現しているようだった。その頃私はもうこれ以上ないくらい畏まり、石像の様に固まっていた。

なにか不審な動作をしているように思われて泥棒と勘違いされないように必死だった。その様子を察したのか奥様が子供と遊んでみるようにけしかけてくれた。頭が真っ白になっている私と子供、当初はぎこちないコミュニケーションだったが、次第に潤滑に意思疎通が図れるようになり、最終的にはお互い笑いながらおもちゃで遊んだものである。

お風呂や寝床まで用意していただいた。当初は適当なネットカフェを見つけてシャワーを浴びた後に寝そべる予定が、入浴剤入りのお風呂にふかふかの布団で疲れが一気に飛んだ。

おかげで次の日の目覚めはこれ以上無いくらい良かった。しかも、主人が大きなサービスエリアまで送ると豪語するものだ。家から結構距離のあるサービスエリアまで連れて行ってくれるどころか朝食までご馳走になった。せっかく東海地方まで来たのにきしめんを食べさせずに帰すわけにはいかないと肉うどんをご馳走してくれた。最後の最後まで豪快で太っ腹の主人だった。

このヒッチハイクで様々な人の優しさに触れたが、この一家は1晩を同じ屋根の下で過ごしたこともあり思い入れが特別だ。

私も社会人となりヒッチハイクをする立場からヒッチハイカーを見つけたら最上級のもてなしをしてあげたいと考える立場になった。