鍵を無くしたから出会えた絶景

カテゴリー【旅✖️神様】では、様々な人が体験した旅先での奇跡の瞬間をお伝えしています。この体験談を読んで、旅で起きる様々な奇跡の瞬間を感じていただきたい、そして実際に旅に出て奇跡の瞬間を体験してもらいたい、その思いで伝えています。

 

トラブルがかえって素晴らしい出来事を生むから旅はやめられない。

私はかつて旅をしていて災難にあったおかげで素晴らしい経験をしたことがある。

大学三年生の夏休み、人生で初めて購入したクロスバイクで奥州街道を北上し、東京から仙台を目指していた時の出来事である。

クロスバイクはマウンテンバイクの快適性にロードバイクのスピードを足して2で割ったようなスポーツ自転車であり、自転車初心者だった私でも夢中でこぎ進めて二日目の夕方に福島までたどり着くことができた。

途中、初めての自転車旅ということもあり自己管理意識の欠如から痙攣を起こしたり、夜になってもこぎ続けてしまって真っ暗になっても宿が見つからなくて不安になったりした。

しかし、そのようなトラブルが些細なものと思えるようなトラブルが福島県福島市で発生した。

その日の夕方、日が傾いてきた頃に私は福島県の二本松市というところから山道を超えて福島市内入りした。度重なる峠越え、照りつける日差しのせいで私も自転車も休息の必要があったので市内の自転車屋に自転車を預けて手入れしてもらった。

先に自転車を手入れした後に今度は私の気力を回復させようと福島市内で美味しいものが食べられそうな飲食店を探していた。

自転車屋から40分ぐらいのところに美味しそうな定食屋がありそこで食事をすることに決めたが、そこで自転車の鍵がなくなっていることに気付いた。色々と考えを巡らした結果、先ほどの自転車屋が怪しいと思い、急いで引き返した。

自転車屋に入るや否や自転車の鍵についてあれこれと質問したり店内を探したりするのだが、この自転車屋が一筋縄でいかない。こちらは鍵を失うという緊急の事態であるのだが、自転車屋は危機意識の感じられない態度で非常に腹立たしいものであった。

「鍵をこちらのお店で忘れましたので探させてください」というこちらの必死なアピールに対しても「どこでなくしたんですか?」「蟹ですか?」「防犯登録はされているのですか?」別の店員を呼んで「こちらの方が家の鍵を無くしたそうです」など頓珍漢な対応ばかりで、こちらの焦りは募り、怒りさえ覚える始末だった。

こちらも語気を強めて店員に唾を飛ばしながら鍵の特徴を説明するものの相変わらず頓珍漢なやり取りが続け周囲を散策する…そんな光景を1時間近く展開したところ、別の店員が私の鍵を倉庫から持ってきた。

何を勘違いすればそのような行動に至るのかが未だに理解できないが、商品と勘違いして倉庫にしまったとのことだった。時間を大分ロスしたので怒りよりも焦りの感情をむき出しにして自転車屋を去った。

この一件でのタイムロスにより、先ほどの飲食店で食事を摂ることもこれ以上先に進むこともできなくなった。

結局、駅前のなんの変哲もないラーメン屋で夕食を摂り、宿泊場所もいい場所を確保できなかったため市の外れの個室ビデオ店に泊まるという最悪の展開になった。しかも、個室ビデオ店内のクーラーが効きすぎていて一日中日差しを浴びた私は寒さに震えた。真夏にもかかわらず毛布や持参したタオルや持参したシャツを何枚も体に重ねて寝ることになった。

翌日。前日の遅れを取り戻すために早起きして宮城県を目指した。

最悪の睡眠環境にもかかわらず福島と宮城の県境の「国見峠」まで進んでいったところ、ちょうど峠を登りきったところで日差しを見ることができた。

峠から見下ろす木々を照らしながら登る日の出を見ると、前日の出来事なんかどうでもよくなるくらいの感動を経験することができた。

「杜の都」仙台へと急ぐ気持ちも忘れて、ただただ日の出を見つめた。

この経験をしたからこそ、未だに旅を趣味にし続けている。もし、時間が前後して日の出を頂上で見ることが出来なかったら、今後旅をすることはなかったかもしれない。

旅は、様々なトラブルを帳消しにできるくらいの感動があるから、やめられない。