馴れ初めは空港の乗り継ぎで

カテゴリー【旅✖️神様】の記事は、様々な人の旅先で起きた奇跡の瞬間を、旅人独自の表現方法でお伝えしている記事です。この記事を読んで、できるだけ多くの人に同じような奇跡の体験をしていただきたい、そのために様々な場所へ旅に出てもらいたい、その思いで伝えています。

都内の総合大学の文系というのは、サークルやらバイトやら、学業以外のことに精を出し、何を学んでいるのかはっきりしない学生生活に何らかの意義を持たせようとします。

私もそんな大学生でした。

大学4年間はボランティア活動に精を出し、最後の夏はその一環でメキシコに遠征することになりました。

スリには何度か遭いましたが身に危険が及ぶような事件に巻き込まれることもなく、現地での活動はおおむね無事に終了しました。

仲間と同じ帰国の飛行機を予約できなかったので、私は一人で日本へ帰ることになっていました。

日本とメキシコをつなぐ直行便が無かったのでアメリカジョージア州アトランタで飛行機を乗り継ぎ帰るスケジュールです。

アトランタ空港

メキシコシティからアトランタ空港に着いたのは夕方でした。日本への帰国便は翌日の朝です。空港で一夜を過ごしても良かったのですが空港近くのホテルに泊まることにしました。アトランタの治安はあまり良くないと聞いていたので空港からホテルの移動はどうしようかなぁ・・・なんて思いながら空港内のホテル予約カウンターに近づいて行きました。

カウンターのそばには私と同じように翌日の乗り継ぎ便までの一泊を予約しようとしていると思われるビジネスマンが2人立っていました。

「身なりもきちんとしているし、この二人なら護衛役に使えそう。」

そんな打算をし2人に声を掛けてみました。

「空港近くのホテルを予約するなら私も同じホテルを予約してもいいですか?この辺りは治安が悪いと聞くからこの時間に一人で出歩くのは怖くて・・・」

2人のビジネスマンは顔を見合わせお互いに「いいよなぁ?」と言うと快諾してくれました。3人で同じホテルを予約し、そのホテル内で夕食も一緒に食べることになりました。

「僕は建築家のバーカント」
「僕は弁護士のターヒル」
「私は大学生のミキ」

彼らはトルコ人でアメリカには仕事で来ていたと話してくれました。大学生の私の目には仕事で海外に来ている彼らがとても格好良くうつり、自分も将来こんな風になれればいいなぁ!そんな漠然とした憧れを抱きました。お酒も入り話は盛り上がっていたのですが、弁護士の彼は疲れたからもう休みたいと言って先に部屋に戻ってしまいました。建築家の彼とのおしゃべりは深夜まで続きました。

翌朝互いの飛行機に乗るために空港で別れを告げた私たち。大学最後の夏の良い思い出でした。

見知らぬ番号からの電話

それから5年後・・・夜中に携帯電話が鳴り私は起こされました。見慣れない電話番号からの着信でした。恐る恐るでてみると

「Hello?ミキ?僕だよ僕、分かる?ターヒルだよ!」

眠気まなこの私に容赦なく英語で話しかけてくる見知らぬ外国人!怪しい!!でも何で私の名前を知ってるんだ・・・?その時、アトランタ空港での出来事が脳裏に浮かびました。

「もしかして、アトランタ空港の?」
「そうだよ!いやー、久しぶり!元気にしてる?」
「うん、元気。あの時建築家と弁護士の2人組だったと思うんだけど、ターヒルってどっちだっけ?」
「弁護士だよ!引越しの荷造りをしていたら君の名刺が本の間から落ちてきてさぁ。電話しなきゃって思ったんだよ!」

先に寝てしまってろくに話もしなかった弁護士ターヒル。うーん、どんな人だったっけ・・・?当時SNSが流行り出した時期だったので、私たちはその後SNSを通じて連絡を取るようになりました。

苦節の時期

当時の私は仕事がうまくいかず、恋愛もうまくいかず、八方ふさがりになっていました。嫌なことがあるとターヒルに愚痴をこぼすようになりました。だって海のはるか彼方にいて、何の利害もない人だし、時差があるおかげでこちらが夜中に電話を掛けてもあちらには迷惑にはならなかったんですもの!(と考えていたのがこちらの身勝手な解釈だったと今は思いますけれども。)

私の八方ふさがりは2年ほど続き、遂に仕事を辞めることにしました。ちょうどその時親友も仕事を寿退社したので、独身最後の記念に2人でどこか海外へ行こうという話になりました。

「実は私、トルコに行って会いたい人がいるの。」

私の話に親友は興味津々で、私たちの行先はすぐに決まりました。

親友との旅行

トルコに着いてもまだ疑いの念を持ち続けていた私たちはターヒルが信用に足る人物なのかを見極めることに慎重でした。

弁護士事務所に行き、弁護士資格の証明書に記載されている弁護士番号をメモし本物の弁護士かどうかを照会サイトで調べてみたり、「この国のIDってどんななの~?」なんて無垢を装いながら隠れて写真を撮ったりと、まるで探偵のようなことをした挙句「いい人じゃん!」認定をしたのでありました。

トルコ最終日、ターヒルは付き合おうと告白をしてくれました。それまでも何度も言われていたセリフでしたが、国際遠距離恋愛なんてしたことのない私には冗談にしか聞こえませんでしたが、この時それが本気であることを実感しました。私もすでにアラサー。お付き合いとなれば結婚を視野に入れたいけれど、この人ともしそうなれば私は移住?いや、それともこの人が日本へ?でも仕事は??

「告白の答えを出すには時間がかかりそう。時間をちょうだい。」

あっけない答え

日本に帰国した翌週、我が家にスイス人のカップルが泊まりにやってきました。高校時代にアメリカへ交換留学をしていた時の同級生が彼氏を連れて日本にやってきてくれたのです。

付き合って何年も経つカップルだというのに2人はとても仲が良く、見ていて羨ましくなってしまった単純な私。

「告白の答えだけどさ、いいよ、付き合おう。ただし条件があるの。結婚を前提に付き合って欲しい。」

それから私はトルコに中期滞在し、ターヒルとの同棲を経験しました。トルコがどこにあるのかよく知らなかったし、イスラム教の国って豚肉食べれないんでしょう?くらいの知識しかなかった私ですが中期滞在を通じて意外に快適に暮らせそうだとポジティブな印象を持てました。今思えばもともと偏見が無かったのがかえって功を奏したのかも知れません。

その後私たちは無事結婚。

現在トルコに移住して1年が経ちます。

よく、人生何があるか分からないと言いますが、空港での乗り継ぎがまさか人生をこんな風に左右するだなんて、一体誰が想像できたでしょう。