あれは1月の終わりのことでした。当時ルーマニアをプラプラと旅していた時のことです。
外も寒く特に行くあてもなかった私は、木造教会が有名だと言うルーマニアとウクライナの国境の町を訪れていました。
涙が出るくらいあったかい紅茶
首都ブカレストから寝台特急に12時間乗り、ちっちゃいバスを乗り継いでやっとついた場所がサプンツァと呼ばれる小さな小さな村です。
伝統的な門構えの可愛いお家が立ち並ぶサプンツァは、バスから見ているだけでも人々が丁寧に暮らしていることがわかり、とてもあたたかい印象を受けました。
寝台特急のチケットの日付が間違っていることに乗車5分前に気がついたり、バスがなかなか来なかったりと色々ありましたが、ここまでは好調な滑り出しでした。
ところが、バスを降りサプンツァの地を踏むと、次々と困難が襲い掛かるのです。
まず初めに、この度の目的でもあったサプンツァの木像教会群は、冬季には見ることができないとのことでした。その上、小さな小さな田舎なのでフラッと寒さをしのぎに入れるようなお店もほとんどありません。
また、早朝に着いてしまったが故、数少ないお店すら、まだ開いていませんでした。ルーマニアは冬に雪が降るのに、首都のブカレストでさえ除雪が機能しておらず、深い雪道をザクザクと歩いていかなければなりません。そんな極寒のルーマニアの田舎で、帰りのバスまで数時間またなくてはいけないことになりました。手足も寒さで感覚を失いつつあり、本当にヒヤヒヤしたのを覚えています。
そんな時、たまたま朝のお散歩をしていたおばあさんが声をかけてくださいました。彼女の経営している小さなお店に案内してくれ、温かいフルーツティーを淹れてくれました。そのフルーツティーのあたたかさは、この先も忘れることができないでしょう。
陽気に生き、陽気に死ぬ死生観
そんなおばあさんに紹介されていってみることにした場所が、「陽気な墓」と言われる墓地です。
サプンツァの職人さんが一人一人に木彫りの墓標を作るのが伝統のようなのですが、その墓標がただの墓標じゃないのです。その人の人生や好きだったものをモチーフにした非常にカラフルな墓標なのです。
寒さも忘れて、次々と墓標を眺めて歩きました。
たまたまこの村にそう言う価値観があるのか、ルーマニアの東方正教の教えからきているのか、真相は定かではありませんでしたが、死を恐れず、楽しく人生を生きるサプンツァの人たちに感銘を受けました。
最後まで抜かりなく親切な人々
陽気な墓で時間を潰していると、気がつかないうちに帰りのバスの時間がやってきました。
バスが通る大通りで待 っていると、予定の時間が30分過ぎても中々バスが現れません。寒さと空腹で少し元気を失っていると、たまたま通った車の陽気なおじいさん二人が、街まで乗せていってくれるといいます。
実は、バスを待っている間、知らない人同士が、車をシェアしている光景を何度も目にしていたので、私もお言葉に甘えて乗せてもらうことにしました。
助手席にいたおじいさんも実は全くの他人なんだそう。
公共交通機関の少ない田舎ではよくあることだそうで、そのあとも数人、車に乗ったり降りたりしていました。日本の特に都会では中々味わうことができない人の余裕や優しさに触れて、自分もこうありたいなぁと身が引き締まりました。
旅の目的は果たせず、慣れない土地と厳しい寒さでどうなることかと思いましたが、当初期待していたものよりはるかに貴重な経験をすることが出来ました。またいつか機会があれば、お土産を持って訪れに行きたいと思います。
その時まで、どうか皆さんお元気でいらっしゃいますように。